地下世界の謀略





圧迫感が月を襲う。
容赦無く締め付けられる喉からひゅっと掠れた息遣いが漏れた。

殺意は向けられていないというのに、彼の目だけは、本気だった。



「月ちゃんは可愛くて攫っちゃいたいくらい無垢だけど、なんだろう。ちょっと邪魔なのかも…」

「……っく、ぅ」

「あ、俺にとって邪魔なわけじゃないよ?"仕事"のとき、邪魔なだけで」



戸惑いも躊躇も見えない、彼の言葉は明らかな凶器。

苦しめられる呼吸器官と比例して意識すらも朧げになっていく。
幸いなことに子供達は私達の今の状況に気付いていない、あの子達が被害に合うことはないだろう。



(嗚呼、でも)



この世界の邪魔者は、私だけだった。








「何してる、始末屋」


意識が飛ぶかと思われたその時、地を這うような低い声が耳についた。

それは間違いなく本堂にいたはずのアルトの声で、アルトの睨みに喉元にあった眞田の手も緩む。



「……っ」


ずるりと重力に従って崩れ落ちた身体は、無惨にも地面に叩きつけられた。その痛みよりも苦しさから解放された肺に、急激に酸素が取りこまれたため、呼吸を行う方がずっと痛かった。






< 52 / 111 >

この作品をシェア

pagetop