地下世界の謀略




教会が小さく見えるようになってきた所で、ようやくアルトの足どりは遅くなった。



「…ねえ、なんでそんな急ぐの。速すぎ」

「理貴さんも言ってただろ、教われた場所に長居すれば奴等はまた来る。今日はもう帰った方がいい」


確かに、と納得した月もそれ以上はなにも言えず、黙ってアルトの後ろを歩く。

爆発したときの破片を踏んでいるせいか、足を踏み込む時にパキパキと音が鳴っていた。
こんなところまで破片が飛び散っていたことに驚きながら、アルトを盗み見る。




───独りぼっち、寂しい人。


彼の背中を見ていると、眞田が囁いていた言葉の数々が浮かんでは消えた。思わず、名前を呼んでしまうほど不安に駆られた。


「アルト」

「?」


名前を呼べば簡単に振り返る彼を見ても、眞田の言葉に対する猜疑心は拭いきれなかった。


「……嗚呼、そういうことか」

「っ?」


呼んだくせに何も詮索する勇気もなかった私に何を思ったのか、アルトは近づいて来る。
何が何だか分からない私の前にしゃがみ込んだ彼は、その体制のまま動かなかった。



「…………おい」


痺れを切らして、恨めしげに私を見上げた彼をみても私は疑問符を浮かべるばかり。


「えっと…?」

「、なんだよ」


彼は舌打ちすると、どこか恥ずかしさを隠したように私を睨みつけてきた。



しかし私は睨まれている中で、段々と彼の不思議な行動の理由を察する。

「具合悪いんじゃなかったのか」という台詞は更にそれを明確にさせ、彼には悪いと思いながら私は口元が上がっていくのを隠せなかった。


────つまりは、彼は具合の悪そうに見えた私をおぶってくれようとしたらしい。



それに気づいた私が舞い上がり、彼の背中に飛び乗るまでそう時間はかからなかった。



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