地下世界の謀略
暫しの沈黙が訪れたあと、アルトが急に席を立った。
「────帰るぞ」
ぶっきらぼうにそう告げると、まだ話の途中であるのに彼はコートを羽織った。
「アルト?」
「考えても時間のムダ」
「なにを根拠に…」
「根拠なんてない、勘だよ、勘。」
「は、」
「……いや、強ち間違えでもないかもね。始末屋の考えることは誰にも分からないんだから。それに、荊の動きも活発になり始めてるんだ。…安易に同じ場所にいない方がいい」
月がうろたえる暇もなくアルトは出ていってしまった。
月も慌てて立ち上がり後を追いかけようとするも、理貴が静かに月の名前を呼んでそれを制した。振り返った月が見たのは変わらない笑みだった。
「理貴さん?」
「……彼を守ってあげてくれ」
「…守、?」
「アルトを頼むよ、月さん」
守られるべきは私のはずなのに。
何だか腑に落ちないまま一礼すると、理貴さんはまた穏やかな笑みを浮かべていた。
「────アルト!待ってよ」
「遅いのが悪い」
遅れて教会を出た月が目にいれたのは、琉くん達と戯れるアルトだった。
アルトは、普段より柔かな表情をして三人の前でしゃがみこむと小さくまたな、と別れの言葉を告げていた。
そっからの行動は早く、立ち上がったアルトは先を歩いていく。何を急いでいるんだか。
「皆、またね」
「ばいばい!」
三人の笑顔を確認した月も、再びアルトの背を追いかけた。