二度目の恋
「この村に来たときは、少し悲しい顔をしてた。何しろ気にはなっていた。俺は青い目をしたアメリカ人を見たことがなかった。そんなシャリーさんに声をかけたが俯いて愛想笑いを浮かべるだけだった。だが、直也君に出会ってシャリーさんは変わった。笑顔が見えるようになった。心を開いたんだろうな。二人は結婚した」
「ママは幸せだった?」
「ああ、幸せだったろうな。少なくとも俺には幸せに見えた」
 愁は店内を見渡すと、お店の入り口の近くにあるテーブルに座って、先ほど貰ったあめ玉を嘗めて眉を顰(ひそ)めかした。
「これ、おいしいよ!」
 愁は大きな声で二人に話しかけたが、二人は一瞬愁に目を向け、また二人の会話が始まった。その光景にまた愁は膨れてしまい、店内をその場でまた見渡した。愁には二人の会話はよく聞こえなかった。
「ある日この村に鉄道を通すという話が舞い込んできた。この村に鉄道を通して神霧村という村に繋ぎたいと、ある男がやってきて言ったんだ。その男の名前は……忘れちまった。俺たちは反対した。自然を壊す鉄道を無理に通すことはないと。直也君以外は……」
「パパは一生懸命だった」
「ああ、一生懸命だった。自分の土地を差し出すと言い出したんだ。自分の土地に通せばいいと……だけど、直也君は知っていたんだろうか。このあとその男とシャリーさんが恋に落ちると言うことを……」
「パパは優しかった。ママも優しかった。だけど、ある日突然変わったの。パパが暴力を振るうようになった。女の人を、家に連れてくるようになった。連れてきて、その後……その後……」
 美月は涙ぐみ、言葉が出てこなかった。
「あの日、あの、事故のあった日。シャリーさんは丘に向かった。あの日は雨だったのに、何故丘に向かったんだ」
「ママは悲しい顔をしていた。あの日、私もいたの。私もママを追って出た。ママは、私の目の前で……」
 また美月は言葉を詰まらせた。
「ただ解らないことがある。何故あの丘が崩れたのか」
 美月は眉を顰めた。
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