二度目の恋
 愁と亨は光も無い闇の中を走り続けた。もう家も遠く、その家の光さえ見えなくなっていた。亨が止まった。続けて愁も止まった。フクロウが不気味に鳴いている。
「パパ、ひかり」
 愁が言った。
「おう、懐中電灯」
 亨は後ろのポケットに入れていた懐中電灯を取り出し、スイッチを押した。愁と亨の目の前にほんの少しの道が開けた。まだ、蘇生されてない道だ。
「ママ、怒ってる?」
 愁が言った。
「ああ、大丈夫だ」
 亨が言った。
「でも帰ってからまた怒るんじゃないかな」
「なあ愁、女はいつも男を怒鳴りまくる。男はいつも女の尻に敷かれまくる。男は女に弱い生き物なんだ。だがな、それは表面だけだ。男は本当は強いんだ。強い自分を隠し、弱く演じること。女の尻に敷かれること、それをうまく使い分けることが、家族円満に暮らす秘訣だ」
 亨は愁の肩に手を組み、歩きながら言った。


 役場の明かりが近付いてきた。村役場は二階建てで、この村にしては一番綺麗な建物だった。小さな部屋から大きなホールまで様々ある。なかなかな広さだ。二人は玄関に着き、中に入った。
 「あら、シュウちゃん」誰かが声をかけた。二人は振り向くと、そこに、笑顔をふりまいた浅倉(あさくら)唯(ゆい)がいた。まだ二十八の若造で、やせ細っていて、少し内股で身長だけはあるが、カマっぽかった。つまり、女っぽいということだ。この村の村長の息子で、この村役場の管理人をやっている。
「なんだ唯か」
 亨は言った。
「亨さん、遅いよ」
 唯が言った。
「ああ」
 亨が答えると
「おじさんこんにちは」
 愁が、口を出すように言った。
「お兄ちゃんと呼びなさい!」
 唯が言った。
「みんなは?」
 亨はすかさず言うと
「来てるよ。亨さん待ち」
 唯が言った。
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