二度目の恋
空き家が近付いてきた。空き家を通るとき、見ないようにした。だが、愁の心のほんの一部分が収まりつかず、あの目が気になってチラッと見た。
 愁の想像は、最大限に引き出された。
 薄暗い陰がある。かなりの襤褸家のようだ。小さな窓がある。トイレの窓だろうか。風呂場の窓だろうか。愁は見た。何者かの目が見開き、光り出したんだ。人影が感じられるその光の背後に、愁は吸い寄せられた。硬直した。心臓の鼓動が鳴り響いていた。
 気づくと、家の中にいる。あちこちに蜘蛛の巣が張り、椅子や机、全ての物が、埃で埋め尽くされていた。すぅーと愁の横を風が通った。生暖かい風だ。その時、家の奥でギシッと音がし、愁の心臓は突き刺さるようにドクンッ大きく鳴った。寒気が体中に通り、手や足、瞼さえ動かなかったが、愁は思った。<誰かいる!>重い足を上げ、ゆっくりゆっくりと前へ前へ進んでいった。
 リビングを出ると、そこには廊下と二階に繋がる階段があった。恐る恐る二階へ行く。階段は腐りかけている。ミシミシと音は鳴り、いつ崩れ落ちるか分からない。恐怖と不安の紙一重で、愁は慎重に上っていく。そして二階へ着く。愁が見渡すと、いくつかの部屋があった。どの部屋もドアは閉まっている。
 一つ一つ部屋を見る。もう、恐怖とか言う心境ではない。何かが愁の心を爆発させた。まず、一つ目の部屋のドアを開けた。
 すると、心底深まる暗闇と、そこに沸き上がる月光が愁を星当てた。埃と蜘蛛の巣が部屋一面に塗したち、その蜘蛛の巣を払い退けながら部屋を見渡したが誰もいない。次の部屋に行くことにし、一つ目の部屋のドアを閉めた。
 二つ目のドアに着くと、颯爽(さっそう)とドアを開けた。この部屋も見渡し<やはりこの部屋もいない>そう思うと、直ぐさまドアを閉めて次の部屋に向かった。
 三つ目のドアの前に着いた。またすぐにドアを開けて中を見ようと、ドアノブに手をかけると愁の顔色は変わった。<冷たい!>さっと手を離した。ドアノブが凍るように冷たい。愁は嫌な予感がし、身震いさえしたが勇気を出してドアを開けることにした。ドアノブを暖めるように手でさすりながら握り、一気に回してドアを倒すように押したが、開かない。この部屋だけ建て付けが悪く、開かなかった。もう一度、押し倒すように体をドアにぶつけてみた。
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