二度目の恋

第四章

 次の日の朝、亨の遺体が病院から運ばれた。静かな朝だった。亨の遺体が乗せられた車が家の前に着き、愁は二階の部屋の窓を開けた。恵子が玄関から出て迎え、車から二人の男が出てきて後ろのドアを開け、遺体を取り出して家の中へ運んだ。愁は二階の窓から、その光景を見ていた。
 午後、沢山の人が家に集まってきた。近所の人、親戚の人、知っている顔と知らない顔が入り交じっている。愁は自分の部屋で物の整理をしていた。足の踏み場もないぐらいに物を広げた。どこから片付けていいのか分からず、亨との思い出ばかり残っていて、何を捨てていいのかも分からなかった。一つ目に付いた。それはプラモデルの箱。戦艦のモデルだ。亨が十才の誕生日に買ってくれた。まだ、作りかけだった。
 階段を上って来る音が聞こえる。すると愁の部屋のドアが開き、恵子が顔を出した。「愁、何してるの。早く降りてきなさい。みんな来てるのよ、挨拶しないと失礼でしょ。それにあなた、まだパパに会ってないでしょ」そう言い、恵子は部屋を見渡した。足の踏み場もない部屋に呆れ<こんな忙しいときに、この子は一体何をしてるのかしら>そう思い、愁に怒ろうとすると、愁の方が先に口開いた。「ママ、戦艦。まだ作りかけなんだ」手に持っていたプラモデルの箱を、恵子に差し出した。「十才の誕生日に、パパが買ってくれたんだ」恵子は愁を見つめた。愁はプラモデルの箱を開け、恵子に見せた。「パパが買ってくれたのに、まだ作りかけだった。僕、忘れてたんだ……」恵子は愁を見つめていた。愁の気持ちは分かっていた。寂しく、悲しい。胸苦しい気持ちは、恵子にももの凄く伝わっている。恵子は優しい口調で愁に話し始めた。「愁、パパが待ってるわよ。パパ、愁に会いたがってるわ。整理は、後にしなさい」そう言うと、部屋に背を向け、階段を降りようとした時「夢の続き……」愁は恵子を留めるように、話し始めた。恵子は立ち止まり、振り返って愁を見た。「……昨日の夢、まだ続きがあるんだ。
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