二度目の恋

第七章

 一週間ぶりに、神霧村に晴れ間が訪れた。愁はカーテンを開け、窓を開けると爽快な日の光が入り込んできた。爽やかな風も流れた。
愁は部屋を飛び出した。走り走って、美月の家へ向かった。美月は二階の窓から、外を眺めていた。眩い光にあたり、田植えの終えたばかりの、苗の心地よい匂いが辺り一面に香った。
 愁が美月の名を叫びながら走ってきた。家の前に着くと、愁は二階の窓から覗く美月を見上げて言った。
「いこう!」
「えっ?」
 美月は驚いた。
「行きたい所があるんだ!」
 愁は言った。美月は一瞬戸惑ったがすぐさま笑顔に変わり、大きく頷いて慌てて下へ降りていった。


 二人は走った。愁は美月の手を、ギュッと握って引っ張った。腕が千切れるぐらいに引っ張り走った。愁は美月が村に来たことが、嬉しくて嬉しくて仕方なかった。それは美月も同じだった。愁との出会いが、自分の人生を大きく変えるとまで予感していた。
 愁は立ち止まり「ここだ!」言った。そこにある樹木の枝に、結ばれている赤いリボンがあった。すると愁は突然美月に背を向け、しゃがみ「僕に乗って!」美月は訳が尾分からなかったが、言うとおりにして負ぶさり、愁はゆっくりと立ち上がった。「美月、目を瞑って。僕を信じて。ここが入口だよ。僕がいいって言うまで、目を開けないで」美月は頷き、力いっぱいに目を閉じた。「じゃあ、行くよ」愁はそう言うと、美月を負ぶりながら勢いよく草むらに突っ込んでいった。愁は走った。草花を避け、木の根っこを飛び越え、そして辿り着いた。愁は立ち止まり、しゃがんでゆっくりと美月を降ろした。「目を開けていいよ」愁が言うと、美月はゆっくりと目を開けた。美月は驚きに満ちていた。そこは青々とした湖。色とりどりの花々、巨大な樹木、巨大な岩、そこに見たことのない自然があった。「こっちだよ」愁は美月の腕を引っ張り、岩に近付いて美月を座らせた。
 美月を座らせると、愁は色とりどりの花々をむしり取り、小さな花束を作った。
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