二度目の恋
やがてかおりの喘ぎ喚く声と直也の激しい息遣いが聞こえてきた。「ママ……ママ……」美月は少しも動かずにジッと座ったまま、ただその言葉だけを口ずさんでいた。


「ブラックジャックだ」愁が叫んだ。「まただ」ガン太がカードを放り投げた。「愁は天才だよ。五連勝だ」芳井が自分のカードを睨みながら言った。「愁、窓開けて」竹中が言った。「雨?」ガン太が言った。「ああ、音がしなくなった」竹中が言った。「雨、止んでるよ」愁が窓を開け叫んだ。「よし、これで家に帰って、もう一回シャワーを浴びなくてすむ」芳井が言った。「ねえ愁ちゃん、隣りに女の子が引っ越して来たんだって?」唯は台所仕事を終え、エプロンを脱ぎながら言った。「うん」愁は返事した。「どんな子?」唯が言った。「う~んとね、背は僕より少し小さくてね、髪は肩まで、長いの。良い子だよ。あ、あと目が青いんだ」愁は窓に寄りかかって言った。「目が青い?」唯が言った。「ああ、あの太ってる子だろ」ガン太が言った。「痩せてるよ」愁が言った。「えっ?静江が言ってたそ。あいつもこの前の雨の日に、その子を見かけたんだって」ガン太が言った。「静江ちゃん、目が悪いから雨で歪んで見えたんじゃないの?」芳井がちょっと茶化すように言った。「あ、それ有り得るね」唯も茶化した。「それはないだろ」ガン太がちょっと膨れながら、まじめな顔で答えた。「外人か?」竹中が言った。「えっ?」ガン太が言った。「青い目してんだろ。外人か?」竹中が言った。「ママがね、アメリカ人なんだって」愁は、美月の事を聞かれたのが嬉しく、少し興奮して答えた。「三人家族か」芳井が言った。
「ううん、二人」芳井が言った。「ちょっと前にお母さん、亡くなったんだって」愁が言った。「それは気の毒に……」唯が言った。「パパと同じ時期に、死んだんだよ」愁が言った。「亨か……」竹中が亨を思いながら言った。「亨ね……」芳井の続けて言った。「でもきっとお父さんは、優しい方だろうね」唯が関心して言った。「なんで?」愁が聞いた。「だって女の子を男一人で育てるのって大変だよ」唯が言った。「会ったことは?」竹中が聞いた。「まだないの」愁が答えた。「どんな人なんだろうなぁ」ガン太が呟いた。
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