二度目の恋
部屋は暗かった。リビングのソファーに直也と美月は寄り添って座っていた。かおりは帰った後だ。直也はまたバーボンを飲み、美月は静かに立った。「どこへ行く」直也が言った。「トイレ」美月が言うと直也は細い目で美月を見、手を振り落として美月を再び座らせた。すると直也は腕を美月の肩や腰に絡ませ体中の匂いを嗅いだ。直也の息遣いが荒くなってきて、次第に足元を擦り出した。美月は目を開いたまま動けはしなかった。


 愁は時計を見た。「あ、もうこんな時間。帰らなきゃ」壁に掛けられた管理室の時計は十時だった。「まだいいじゃない。夏休みなんでしょ。ちょっとぐらい……ねぇ」芳井が言った。「でもママに怒られちゃう」愁はまだみんなと一緒にいたい気持ちはあったが、手に持っていたカードをテーブルの上に置いた。「駄目だよ愁。ゲームは終わってないんだ。それに俺はまだ一度も勝ってない」ガン太が言った。「だってママが……」泣きそうな顔で言った。「ママ、ママ、そんなにママが怖いか」ガン太が茶化して言った。「がんちゃんいい加減にして!愁が可哀想じゃない」唯が言った。「お前はいつも愁の味方だな」ガン太が言った。「当たり前でしょう、愁は子供なんだから」唯が言った。「もういいよ。今日はみんなお開きだ」竹中が言うと、みんなカードを置き揃えて片付け始めた。
 みんな、部屋を出た。玄関から外に出ると湿った土の匂いがした。「雨上がりだな」芳井が言った。「あ、月が出てきた」愁が言った。「じゃあみんな気を付けて帰ってね」唯が言った。「じゃあ」それぞれがそれぞれの方向に帰って行った。
 愁は家まで走った。月明かりに照らされた道をたどって、そこに、明かりも付いていない静かな美月の家の前を元気良く走り過ぎて行った。
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