愛シテアゲル


「父ちゃんに報せるよ」
「ダム湖に誘う。街中で後ろを取られたら、追突される。信号機が少ない道を選ぶと伝えてくれ」
「うん!」

 すぐにスマートフォンを取りだし、小鳥は助手席で英児父の携帯電話の番号を押す。

 ――どうした。小鳥。

「父ちゃん。アイツ、勝岡に現れた。それに、またMR2に突っ込んでこようとしたよ! いま翔兄がダム湖に誘い込んでいる!」

『わかった。俺達も嫌な予感がしてお前達の帰りを待っていたところだ。今から向かう。無茶するなよ』

 小鳥が返事をする前に、父が電話を切ってしまった。

「父ちゃん達もダム湖に来るって」
「わかった」

 とても落ち着いた冷めた声。もう先ほど、優しい眼差しで熱い息で小鳥を求めてくれたお兄ちゃんではない。

 でも、小鳥はドキドキときめいていた。
 やっぱりお兄ちゃんの運転はすごかった。
 手放したMR2なのに、今でも変わらず自分の手足のように操って……。
 MR2と今でも以心伝心、一心同体。それほどに乗り込んだ愛した、この車は彼の恋人だったんだ。そう思う。

 彼は車をそうして愛せる人。私も、そんなふうに愛されたいよ。通じあう恋人になりたいよ。





< 187 / 382 >

この作品をシェア

pagetop