愛シテアゲル


 側でその話を聞いていた翔も戸惑っていたが、そこは武ちゃんが、若い二人の落ち着かない気持ちを宥めてくれる。

「被害に遭うというのは、そういうこともあるんだよね。簡単に勢いで、正当な仕返しをしてお終いというわけにいかないんだよ。加害者の素質もよく見て決着つけないとね。怒り任せが実は一番危ないことなんだ。そこは親父さんと顧客筆頭の高橋さんがうまくまとめてくれるよ。弁護士も御曹司の南雲さんからの紹介で、長年顧問をしてくれているから大丈夫だろう」

 だが、そこで武ちゃんが気になることを呟いた。

「まあ。瞳子さん次第かな。本当のこと、話してくれるといいんだけれどねえ。タキさん、聞き出せたかな?」

 それで。小鳥は初めて知った。今日、英児父が急ぐように出かけていったのは『瞳子さん』に会いに行くためだったのだと。

 翔を見ると。彼も知っていたのか、小鳥を見てくれたが何も言わない。

 それに。『本当のことを話してくれるだろうか』とは、どんなこと? 英児父と武智専務は、瀬戸田と瞳子さんの間であったことは、どんなことだったと予想しているのだろう?

 この龍星轟に、彼女が再び関わろうとしている。


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