もう春は来ない


 4月――


「それで…?」
 

 あの日、僕は手にしたスマホに気を向けながら、いつものように冷めた顔で聞き返してみせた。


 学校の帰り道。

 サクラ並木の川沿いを、ダラダラと、二人、背を丸めて歩く。

「それでなんだって?その…ピッチャー以外全ポジ守れる選手?んなもん、知らねえな」

 だって、元々そんなことにはまったく興味がなくて。

 それよりも、川向こうの女子高の生徒が、こっちに向かってくるのが気になっていて。

 それなのに、

「まじで言ってんの?おまえ、ほんっとに元シャイアンツの志村拓也知らねえの?」

 なんて、コイツがあまりにも目をむいてびっくりするから。

「シムラタクヤ?なんだよ、アイドルと同姓同名だっていうの?あーそりゃびっくりだ」
 

 なんて、テキトーに驚いてみせた。 
 

 それでも、僕以上に女子高生を意識しながら、少し偉そぶるコイツもいつものことで。

「まじかよ、頼むぜ。シャイアンツのコーチだぜ?ったく、志村拓也を知らないお前にびっくりだよ。昨日はうちの家じゃその話題で持ち切りだったつうのによお」

「知らねえもんは知らねえっつうの。だからなんだって?そのシムタクがどうしたって?」

「だから、死んだんだって!シートノック中に突然倒れたまま、結局昨日死んだんだってよ」







………。









 それで?


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