瞳の向こうへ
【潤子side】


葵ちゃんが戻ってきたのはそれから一時間ぐらい経った頃だった。


「おかえり。お疲れ様」


「疲れました。いきなり部室に連れていかれましたもん。襲われると思いました」


彼女の言い分はどうやら間違いではないみたい。


疲れの色が濃い。


風邪の治りがけだから仕方はないけど。


「それで、何しに行ったの?」


「一通りの練習メニューを手話で伝えて、青柳君にも野球部に必要最低限なことは教えたつもりですけど、たぶん青柳君でも覚えるのに時間かかります」


他人事のようだけど、葵ちゃんはかなり心配してる。


無理もないわ。少人数ならなんとでもやっていけるけど、野球部は新入生を除いて現在五十人ほど。


キャプテンなら一人に構っていられる時間は到底ないはず。


「ところで、しょうじ君の漢字聞いてきたの?」


「え〜と、東に林に海でかけるは、飛翔の翔です」


「なるほど、東海林翔君ね。いい名前だ。彼はどこ守るの?」


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