瞳の向こうへ
場の雰囲気が微妙に和んだところで、私は深呼吸をした。


「さ、これからが去年のリベンジの始まりよ」


「先生はまたお前とドライブするからな」


「葵さん、頑張ってくださいね」


三人のエールを聞き流し、自分の世界へと入り込む。


カメラ相手に私は手話を繰り出す。


相手は生身の人間ではない。


物言わぬ機械。


去年……いや、最近ずっと関わってるから慣れてる。


三人は黙って私をずっと見ていると思う。


物音一つ聞こえない。


野球部の元気のいい掛け声も聞こえない。


私が集中してるから?


いや、まだ始まってないからか。


とにかく今日は何だかいい。


あ……、やっぱ集中してるんだね。


たぶん十分ぐらいだと思うけど、私なりにやりきった。


潤子先生に目で合図を送り、止めてもらった。


「終わりましたよ」


「ご苦労様」


「いや〜、なんて言うかやっぱさすがだなあ」


源先生は感心しつつ、軽蔑な視線を潤子先生に向ける。


「ああ、凄いですね。あなたのレベルは私たちを惚れさせるね」


首を二度振る潤子先生。

いい意味で呆れているようだった。


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