神隠しの杜
 冬空の下三人で背中を丸めながら歩く。吹きつきける風は容赦ない。

 防寒具にコートとマフラー、それに手袋をしていてもやはり寒く、吐く息も白い。


「あーあ、田舎だからコンビニなんて大通りしかないし」

「寄り道は学校から禁止されてるじゃないか」


 歩は大きくため息をついた。



 立ち寄りで唯一許可されているのは図書館だけだった。
 
 朝の時間にも読書の時間が組み込まれるくらい、歩たちの通う学校は読書を大事にしている。卒業生たちが本を寄贈してくれているおかげで、かなり潤っているらしい。


 隼政は一年生と二年生の冬の時でも決まって、同じ事を言っていた。


 夏生まれの隼政は暑さに強く寒さには弱いため、冬場は毎日のように愚痴をこぼしているくらい冬が苦手で、コンビニを避暑地扱いしている。


 正確に言えば、避寒地になるかもしれないが。


 いつもの別れ道の目印としてある、隠れ神社の前で歩は隼政と雪芭と別れた。


 そこからの記憶が、歩にはなかった。



 綺麗に記憶が途切れていた――――


 普段から物事に冷静な歩は別段取り乱す事はなかったが、目が覚めたらいきなりこんなわけのわからない世界で、さすがの歩も四苦八苦している。


 あかあかと続く彼岸花を見ていると、もしかしたらここは、黄泉の国かもしれないと思ったりもした。


 何時間も歩き続け足はとうに限界を超え、足が止まるのも最早時間の問題だった。


 足が止まりそうになったその時、どこからか少女の声がした。


「もう、あきらめればいいのに」


 面白がった口調で、くすくすという笑い声が聞こえる。


 歩は幻聴だと思い、構わずに歩き続けた。

 だが、少し不安に思う事があった。一向に景色が変わらない事などあるのだろうか、と。






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