Mezza Voce Storia d'Aore-愛の物語を囁いて-
 ジョーンの前にあった鏡をエレノアとローラで持ち、部屋の隅に片付け始めた。

 ジョーンは後ろにある椅子に腰を下ろすと、ウイリアムの不満そうな顔を見つめた。

「いいのよ、ケイン。ウイリアム、どうして犯人がレティアだと思うの?」

 ジョーンの質問に、ウイリアムの顔がぱっと明るくなった。ウイリアムが一歩前に出て、ケインの横に並ぶと、鼻の穴を膨らませて話し出した。

「風の噂では、レティア様は王妃の座を狙っていると聞きました。国王陛下とただならぬ関係だという噂もありますし。私が見た限りでは、国王陛下と王妃陛下の夫婦仲は悪くない。王妃陛下を憎んでいるという話も聞きません。だから、レティア様が犯人なんです」

 力強く発言したウイリアムが、言い終わると満足そうに大きく頷いた。

 褒められるのを期待した顔つきで、ウイリアムがケインの顔を見た。まるで褒美を待つ犬のようだった。

 ケインの顔つきが怖い。目を細くして、ウイリアムの顔を見つめている。

 ケインの怖い顔を見たウイリアムが見るみる真っ青な顔色に変化していくのがジョーンにもわかった。

「……と父が、話していたので僕もそうなのかと」

 さっきまでの自信はどこに行ったのか。急に口の中でもごもごとウイリアムが言葉を発した。

 ジョーンは思わず噴き出してしまった。

(ご機嫌取りをするのは父親譲りね)
< 111 / 266 >

この作品をシェア

pagetop