Mezza Voce Storia d'Aore-愛の物語を囁いて-
「ウイリアム、覚えておいて。噂というのは多少、大きな言い回しになっているわ。人々が面白可笑しく事実を勝手に曲げてしまうの。ウイリアムだって、友人と話をするときは面白い内容のほうがいいでしょ?」

 ウイリアムが無言で頷く。

 横に立っていたケインが、すぐに肘でウイリアムの肩をつついた。びくっとウイリアムの身体が反応し、「はい」という声をあげた。

「王妃や貴族の人間は、そんな噂に流されてはいけないのよ。証拠があって、確実な事実だと思える内容しか言葉にしてはいけないの。わかったかしら」

 ウイリアムが頷きそうになって、慌てて返事をした。

 ジョーンは椅子から立ち上がると、ケインとウイリアムに背を向けた。

 窓から差し込む光の中に入ると、鮮やかな青色のドレスのスカートを見つめた。

「理想は、ね。一度、ジェームズ・ダグラスに会って話を聞きたいわね。いろいろな情報を持っていそう」

 ジョーンは振り返るとウイリアムの顔を見つめた。

「噂ばかりの話しか聞いてないですから。陛下のお耳汚しになるかと」

 肩をすくめ、小さな声でウイリアムが口を開いた。ケインも怖い顔をして首を横に振っていた。

 ジョーンは部屋の隅でお水の用意をしているエレノアとローラの背中を眺めた。
< 112 / 266 >

この作品をシェア

pagetop