Mezza Voce Storia d'Aore-愛の物語を囁いて-
「陛下はお変わりになられました。人の死に、笑みを零すようなお人ではなかった。人の噂に惑わされるお人ではなかった。ジェームズ・ダグラスに何を吹き込まれたのです?」

「私に何を吹き込むというの?」

 ジョーンの声も低くなる。まるでダグラスに惑わされているみたいな言い方に、ジョーンは腹が立った。

 ケインの眉間に皺が寄った。

 ジョーンはソファから離れると、ケインと向き合って立った。ジョーンは目を合わせようとしたが、ケインが合わせようとしてくれない。

「ダグラスとも、関係をお持ちになったのですか?」

(ケインに、そう思われていたなんて、心外だわ)

 ジョーンは奥歯を噛み締めると、右手でケインの左頬を引っ叩いた。

 ケインの顔が右に傾いた。叩かれたケインの頬が、少しずつ腫れてくるのが見ていてわかった。

「私に対して無礼な質問だとわかって聞いたのかしら? 私があんな男に心を乱されるとでも思っているの? 嫉妬で周りが見えなくなっているんじゃなくて?」

 ジョーンはケインに背を向けた。ジョーンは途端に虚しくなった。

(ケインは嫉妬なんかしていない)

 ケインが感情で物事を判別する男でないとジョーンが一番知っている。王妃の騎士として考えた結果を、今は述べているだけだ。
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