Mezza Voce Storia d'Aore-愛の物語を囁いて-
「驚いているように見えなかった? 実は、これでも驚いているのよ」

 ケインが足の向きを変えて、ジョーンのほうに身体を向けた。斜め右後方からケインがジョーンを見つめた。

 ジョーンの視界の右端で、ケインが怖い顔をして立っているのが映った。ケインが怒っている。

「ではなぜ、クライシス伯爵夫人の死因を聞かないのです?」

「ジェイムズに届いた手紙を耳にしただけでしょう。死因までわかっているの? 急いで来たと言っていたし、知らないかと思ったのよ。知っているなら、教えて欲しいわ」

 ジョーンは右を向くと、ケインに笑顔を送った。

 ケインの顔に苛立ちの色が濃くなった。頬の筋肉が、怒りで震えているように見えた。ジョーンから目を逸らしたケインが、下唇を噛み締めた。

「心にもない言葉を発しないでください」

 ケインの瞳が、見るみる充血していった。
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