Mezza Voce Storia d'Aore-愛の物語を囁いて-

　一四三七年一月十一日。午後十時。

　ケインはミリーのドアを開けた。外は雪がちらちらと降っており、寒さが身に沁みた。

　店内は薄暗く、楽器の演奏と人々の笑い声、ダンスのステップが聞こえてきた。

　店にはロフトがあり、一階部分は五〇〇平方フィートくらいだろう。ロフトの部分は半分の二五〇平方フィートくらいだ。

　店に入ってすぐ左側にはカウンターがある。三人の男が酒を飲み、カウンター内にいる女性と話が弾んでいるようだ。

　男たちの顔は見えないが、女性の表情が笑顔で、しきりに頷いていた。

　一階にはテーブルが全部で、五個あった。そのうちの暖炉に近い二個のテーブルは端に避けられ、男女十人ほどがダンスを楽しんでいた。

　部屋の隅で、楽団が身体を揺らしながら楽しそうに音楽を奏でていた。

　身なりはお世辞でも綺麗とは言えない。女たちの着ているドレスも薄汚れていた。

　それでも顔はとても明るい表情をしていた。豊かな身体の肉を揺らして、軽快にステップを踏んでいた。

　店内に足を踏み入れたケインは、ドアを閉めると毛皮の帽子を脱いだ。暖炉の前でダンスをしていた二人の女性がケインに気がつくと、小走りで近寄った。

「いらっしゃい。あんた、初めて来るお客さんだね」

　薄いピンクのドレスを着ている女が、ケインの顔を見て口を開いた。もう一人の女はオレンジ色のドレスを着ており、大きな瞳が印象的だった。