Mezza Voce Storia d'Aore-愛の物語を囁いて-

「コート類を預かるよ」

　大きな目にケインの姿が映っていた。オレンジの裾が動いたかと思うと、ケインの手にあった帽子が女の手の中へと移動した。

　ケインはコートを脱ごうと肩を動かし、袖を抜こうとすると、すぐにピンクのドレスの女がコートを引っ張った。

（なんて荒々しいやり方なんだ）

　ケインはよろけそうになる身体が倒れないように、両足に力を入れた。

「私の名はジュリアよ」

　ピンクのドレスを着ている女の声が後ろから聞こえた。

「私はキーラよ。お客さんは一人？」

　次はオレンジのドレスの女だ。ケインが外そうとした手袋を奪いとりながら、キーラが質問した。

　ケインは首を横に振ると、ダグラスの姿を探し始めた。

「もしかして、ダグラスさんのお客さんかい？」

　ジュリアの言葉にケインの視線はジュリアに戻ってきた。ジュリアが笑顔でロフトに目を上げた。木の柵が見えるだけで、上にいる人間の姿は見えなかった。