Mezza Voce Storia d'Aore-愛の物語を囁いて-
 視線を横に移動させると階段の上に、見知った姿が立っていた。ロバートの部下リーゼル・クルビスの小柄な背中が見えた。

 ケインは、さっさと歩き出した。背後では女の溜息が聞こえた。

 ジュリアかキーラがしたのだろう。ケインの無愛想さに呆れているのかもしれない。店に入ってから、一言も発していない。

 酒を飲みにパブに来ている男たちには皆、陽気に女と話している。ここの男たちと、ケインは対照的だった。

 ケインは階段を上った。リーゼルが足音に気がついたのか、振り返った。

 ケインの姿を捉えたリーゼルは挨拶をすると、深々と頭を下げた。奥にいた大柄な男アルバート・ティグルも、階段前に出てくるとお辞儀をした。

 十数段の階段を登りきったケインは、ロフト内を眺めた。

 暖炉の前に小さなテーブルがあり、それを囲むように三つのソファが置いてあった。暖炉の真正面のソファには誰も座っていなかった。そこがケインの席だろう。

 暖炉から見て左で、ケインから見て奥のソファにはダグラスが二人の女と戯れていた。

 暖炉から見て右のソファには、ロバートが座っていた。ロバートも女の肩を抱いて、談笑していた。
< 155 / 266 >

この作品をシェア

pagetop