Mezza Voce Storia d'Aore-愛の物語を囁いて-
 ジョーンはコートの襟を握りしめながら、歩いた。木々を抜けると、こんもりとした白い山が見えた。

 頂上よりも低い場所でケインとウイリアムが剣を交えていた。がっちりした体格のケインに目を奪われた。

 白い息が小刻みに吐き出され、ケインの攻めに対し、ウイリアムが後ろに下がりながら剣を受け止めていた。

 ケインが何か指示を出しながら、剣を振っている。ウイリアムに剣の使い方を教えているのかもしれない。

 ジョーンの前では見せない二人の真剣な雰囲気にジョーンは声を掛けそびれて、木々を抜けたところで立ち尽くしていた。

 ウイリアムが後ろに下がっていた足のバランスを崩すと、雪の上に背中から倒れていった。

 雪の中に埋まったウイリアムを見たケインは、剣をしまってから、ウイリアムに近づき、手を伸ばした。雪に埋まったウイリアムを助けようとしているようだ。

 ウイリアムが首の力で顔を上げると、手を伸ばしてケインの手を掴んだ。

 雪に埋まっていたウイリアムの身体がケインの手によって雪の中から出てきた。

 身体中に雪がついていたが、白い雪は見るみる解けて透明になっていった。
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