Mezza Voce Storia d'Aore-愛の物語を囁いて-
「ピットは本当に煩くて困るわ。毎夜、私の夢にまで出てきて小言を言うのよ」

 エレノアが大きく息を吐きながらローラに不満を漏らした。

「ピットと言い争いができるのは、エレノアだけよ。嫌味ったらしい顔に、達者な口には勝てないもの」

 ローラが遠ざかっていくピットの背中を眺めていた。ローラとエレノアの二人が顔を見合わせると、笑い声が響いた。

「二人とも、いつから知っていたの?」

 ジョーンは笑い合っている二人に声をかけた。ローラとエレノアの背筋が伸びると、ジョーンに身体を向けた。

「王妃陛下、二十分ほど時間がとれます。この木々の壁を抜けると、ケイン様とウイリアム様が稽古をしておりますので」

 エレノアが笑顔で口を開いた。

「私たちに質問をしていたら、会っている時間が短くなります。質問は他の機会にでも」

 ローラも笑顔だった。

「そうね。貴方たちには感謝するわ」

 ジョーンはエレノアが持っていた小袋を手に取ると、銀貨を三枚ずつ渡した。
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