Mezza Voce Storia d'Aore-愛の物語を囁いて-
―ジョーンSIDE―

 一四三七年二月二十一日。午後十時半。

 ジョーンはスコットランドのパースに、ジェイムズと一緒に来ていた。

 今夜からグレイフライアーズ修道院に一ヶ月ほど宿泊し、パースの貴族と親交を深める予定である。

 明日になれば、パースでの予定は全てキャンセルになって、急ぎエディンバラ城に帰るようになると、ジョーンは信じていた。

 ジョーンは修道院から借りた二六〇平方フィートの部屋に荷物を入れさせると、寝る準備をした。

 着ていたドレスを脱ぎ、コルセットも外した。赤いガウンを羽織ってから、きつく結び上げていた髪を解き、綺麗に髪を梳かした。

 寝る準備が整うと、ジョーンはメイドたちに出て行くように命令した。それでもキャサリンだけ、ジョーンの部屋に残った。

 ジェイムズに、夜も一緒に寝るように指示されているらしい。ジョーンはベッドの上に座っていた。

 キャサリンに本を用意させて、読み始めるものの、集中はできなかった。

 今夜、ケインとダグラスが動く。ジェイムズを暗殺させるために、手引きをする予定になっている。

 どんな夜になるのか。ジョーンは興奮して、眠気など起きない。本を読もうと思っても、目は宙を彷徨い、文字を追おうともしなかった。
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