Mezza Voce Storia d'Aore-愛の物語を囁いて-
「わかった。余が夕食後に退出するから、その後にマードックを誘ってくれ。今日は楽しい夜になりそうだ」

 ジェイムズがとても楽しそうに手を叩いた。反対にジョーンの心は重たくなっていく。

(人を殺すのに、妻を利用するって、どういう考えをしているのかしら)

 ジョーンはだんだん苛々してきた。

 王を殺そうとしていると知っているなら、証拠を突き出して裁判を起こせばいいのではないか。殺されそうだと、ジェイムズが勝手に思い込んでいるだけかもしれないのに。

「アルバニ公マードックの裁判はしないの?」

 ジョーンは小声で呟いた。

 赤い薔薇の横を通り過ぎた。ジョーンは赤い薔薇が好きだ。いつもなら足を止めて、じっくりと花を見るのだが。

 今はそんな気分にはなれなかった。

「奴に裁判が必要だと思うか?」

 低い声でジェイムズが答えた。

「私にはよくわからないから。ジェイムズを殺そうとしているなら、公の場で裁判するべきだと思うわ」

「なら、ジョーンの前で申し開きする場を与えてやろう」

 ジェイムズの言葉から計画を中止するつもりはないのだと、ジョーンは理解した。どうしてもマードックを今夜、殺したいのだ。
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