Mezza Voce Storia d'Aore-愛の物語を囁いて-
「マードックは、余を殺して王になろうとしている」

 ジェイムズが楽しそうに肩を揺らして笑い出した。目つきは厳しいままだ。

 ジョーンは、湿った手で触れられたマードックの手を思い出した。

 もしかしてあれは、ジョーンをマードック派の人間に成り得る人物か試されたのだろうか。マードックの甘い言葉に靡くようなら、国王暗殺に利用されていたかもしれない。

「ジョーン、手を見つめて、どうかしたのか?」

 ジェイムズが質問してきた。右手を見ているジョーンを不思議に思ったのだろう。

 ジョーンは顔を上げると、ジェイムズの顔を見て首を横に振った。

「何でもないわ。私に話したのは、何か目的があるのかしら?」

 ジョーンの言葉に、ジェイムズがニヤリと唇を持ち上げた。よくぞ聞いてくれたと言わんばかりの表情をしていた。

「マードックはジョーンに惚れているらしいな。最後に踊ってやれ。そのまま外に連れ出してくれるとありがたい」

(つまり、嫁いで間のない私に殺しの手伝いをしろと言うのね)

「踊るのは嫌だわ。外に出すだけでいいかしら」

 ジェイムズが声を出して笑い出した。何が可笑しいのか、ジョーンには理解できない。

 ジェイムズが隣に座っているジョーンの肩を抱いて、頬にキスをした。
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