Mezza Voce Storia d'Aore-愛の物語を囁いて-
「修道士に、急ぎ、王妃陛下のお部屋を用意するように命じなさい」

 ウイリアムが短い返事をした。心配そうな目でジョーンを見たあと、ウイリアムが背を向けて走り出した。
        


「ケイン、一人で立てるわ」

「陛下、失礼しました」

 ケインがジョーンから離れた。

 ウイリアムが廊下を曲がったと思うと、エレノアとローラの二人が、部屋のドアから恐る恐る顔を出しているのが見えた。

 騒がしいので、気になって覗いたという感じだ。

 エレノアの叫び声が廊下に響いた。血だらけの顔と黒ずんでいるガウンを見て、驚いたのだろう。

 白い夜着姿のまま廊下に飛び出すと、ローラと一緒に走ってきた。

「ケイン殿は何を呆然と立っておられるのですか! 王妃陛下が血だらけなのですよ。早く、手当てを!」

「それより医師を呼ぶほうが先よ、エレノア」

「違うわ。ベッドに横になったほうが」

 顔が真っ青になったエレノアとローラが、ジョーンの姿を見て頭の中まで真っ白になったようだ。

 二人が早口で、言い合っている。
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