Mezza Voce Storia d'Aore-愛の物語を囁いて-
 ドアの前にはベッドが縦になって立て掛けられており、騎士の侵入を拒んだ。他に椅子や棚も積まれて、そう簡単には中に入れそうにない。

 騎士たちが蹴ったり、体当たりして襲撃者が作った防壁を崩そうとした。

 五度目の体当たりで、ベッドが倒れ、椅子が壊れた。騎士八人が一気に剣を抜くと、室内に雪崩れ込んでいった。

「窓から逃げ出そうとしている!」と、騎士の一人が叫んだのが聞こえた。他に剣がぶつかり合う音も聞こえた。

 ドアの前ではダグラスが仁王立ちしており、その隙間から室内を見ようとはジョーンは全然思わなかった。

 ダグラスも中に入ると思いきや、廊下に残って引き抜いた剣をしまっていた。数秒前の気合の入った顔つきは、すでに失われていた。室内の争いを満足そうに眺めていた。

 ダグラスが何かに気づいたのか、視線を動かした。ジョーンのいる方向ではあるが、見ている先は、もっと上だった。

「ケイン殿、何か言いたそうなお顔ですな」

 ジョーンはケインの顔を見た。無表情で、じっとダグラスの顔を見つめている。

「いえ。何も」

 ケインがダグラスから視線を逸らした。すぐ後ろにいるウイリアムに顔を向けた。
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