Mezza Voce Storia d'Aore-愛の物語を囁いて-
 心の中で、何回も繰り返して呟いた。

 殺されるとわかっている人を、死にゆくために外に誘わなくていけない。

 たとえジョーンが誘わなくても、ジェイムズの計画を知っているであろう執事や家臣が、マードックを部屋の外へと誘うのであろう。

 ジョーンはジェイムズと約束をした。約束は守らなければいけない。嫌であっても、受け入れた責任はある。

「王妃陛下、食が進んでおられません。ご気分でも悪いのですか?」

 静かに横に並んだケインが、小声で囁いてきた。ジョーンは顔を上げると、心配そうに顔を覗きこんでいるケインと目が合った。ケインの青い瞳には、ジョーンの暗い表情が映っていた。

「少し考え事をしていただけよ。心配はないわ」

 ジョーンは下がってと、手を上げた。ケインはお辞儀をすると、後ろに下がった。

「ジョーン、普通にしていろ。感づかれるだろう」

 肉を飲み込むと、ジェイムズが声を掛けてきた。低くて、何の感情もない言葉だった。

「わかっていますが、食事をする気になれないのです」

「わかっているなら、行動で示せ。おどおどしていたら、相手に気付かれる」

 ジェイムズがエールを飲んだ。ごくごくと喉を鳴らして飲む姿に、ジョーンは寒気が走った。

 今まで人間に見えていたジェイムズが、血を欲しがり、本能のままに走り回る野生の動物にしか見えなくなった。
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