Mezza Voce Storia d'Aore-愛の物語を囁いて-
 普段なら何ともない光景が、何もかも違って見えた。ジェイムズが人間の皮をかぶった悪魔に見えた。

 肉にかぶりつくジェイムズの横顔が醜い。この男が、本当にジョーンの夫かどうかさえ、わからなくなりそうだ。

 ジョーンはジェイムズがたてる少しの物音でも、敏感に反応してしまう。迫りくる謀に怯えているつもりはないが、ジェイムズの動きが気になってしまう。

 時間が過ぎるのも、倍以上かかっているように感じた。

 異様にジョーンの喉が渇いた。緊張しているのだろう。渇いているならと、エールを飲んでも喉は潤わない。

 食欲はなく、前に運ばれていく食事に嫌気が差した。

 夕食の時間は、淡々と流れていく。ゆっくりと止まらずに、時は過ぎていった。

 食事を終えたジェイムズが、席を立った。一度ちらりと視線をジョーンに向けると、ニヤリと含みのある笑みを見せてから、部屋を退出していった。

 他の貴族たちも席を立つと、部屋の隅に移動したり、部屋を退出したりしていった。

 執事がテーブルを片付けたら、大広間はダンス会場へと様変わりした。廊下で待機していた楽団たちが大広間に入ってくると、音楽が鳴り始めた。
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