Mezza Voce Storia d'Aore-愛の物語を囁いて-
「どうしていつも大事な話をしてくれないの! 私が聞くまで、ずっと隠しているつもりだったの?」

 ジョーンは大きな声を出した。ケインが悲しげな顔をして首を横に振った。

 わかっている。ジョーンを心配して、何も言わないでいたのは知っているし、理解したい。

 ジョーンを思って言わなかったと、わかりきっている返答がケインの口から出ると予想できる。それでも言わないと、吐き出さないとジョーンには耐えられなかった。

「陛下、心の内を話せるご友人をイングランドからお呼びになってはいかがでしょうか?」

「今も私と親しく付き合ってくれると友人がいるとでも思っているの?」

 ジョーンの目に涙が溢れた。何も知らない十代の頃ならいざ知らず。

 三十三歳になって、世の中の良い部分も悪い部分も見てきた。

 スコットランドに嫁いでから、イングランドに一度も足を踏み入れていないジョーンに、まだ友人と呼べる人間が残っていると、ケインは思っているのだろうか。

 スコットランドに来て、イングランドとの交流をジェイムズが許すはずもなかった。

 知っている人間はエレノアとケインしかおらず、どんなに寂しい思いをしてきたか。ケインだって見てきたはずだ。
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