Mezza Voce Storia d'Aore-愛の物語を囁いて-
「ベアトリクスが人質となった旨のご報告をと思いまして」

 ゼクスの言葉を聞いて、ジョーンは赤いドレスの裾を持ち上げて歩き始めた。応接間のドアが開いており、冷たい空気がなだれ込んでくる。

 視線を廊下に向けると、背を向けて立っているケインの肩が見えた。黒いコートを着たまま、ジョーンには背中を見せていた。

(どうして部屋に入ってこないの?)

 ジョーンはマーガレット、ベアトリクス、ゼクスの横を通りすぎると、廊下に出た。

 まだ背中を向けたまま、振り向こうともしないケインの背後でジョーンは足を止めた。

「ゼクスに報告を任せて、ケインはここで何をしているのかしら?」

 ケインの背中がびくりと反応した。ゆっくりと振り返ると、ジョーンの顔に笑みを送る。とても寂しそうで、切ない表情だった。

 ケインの心の中にいろいろな感情を閉じ込めておく癖は直らない。何度も話すように言ってきているが、ケインから話してきた記憶はない。
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