Mezza Voce Storia d'Aore-愛の物語を囁いて-
 スコットランドの南にダグラス城がある。エディンバラ城より九十八マイル南下したところに、ダグラス城が聳えていた。

「残りの部隊はダンフリースで一時待機だ。夜明け前に出発するのがいいかもしれない」

 ダグラス城より東にある町に、チャールズの指が置かれた。ここなら山道を避けて、ダグラス城に近づける。

 ケインはチャールズに目を合わせると、頷いた。

「夜明け前に奇襲を懸ける可能性もある。少人数である部隊を見て、バハン伯の裏切りを信じたなら、ダグラス軍は国王軍が動く前に、勝敗を決したいと思うだろう。馬防柵や逆茂木の用意も必要だな」

 ゼクスが口を開いた。

「なら、先発部隊にロイも入れたほうがいい。裏切り者は、戦場でも裏切る。一番後ろの部隊に入って、ダグラス軍と挟み撃ちにしようと考えるはずだ。国王軍に仲間がいるなら、勝機が高まると思って、ダグラス軍の奇襲する確率も高くなる」

 チャールズが楽しそうだ。目がきらきらと輝いて、鼻息が荒くなった。

「いざ奇襲してみたら、ロイの部隊は存在してなかった――って驚くわけだ。いいね、その作戦」

 ゼクスも笑顔で、チャールズの顔を見た。二人は互いに頷き合って、通じ合っていた。

「最初の部隊はゼクスが用意すること。私は後からゼクスの部隊に合流する。チャールズは僕と一緒に出発して、ダンフリースで待機だ」

 ケインの命令に、チャールズが残念そうな顔をした。

「俺は一番、面白いシーンを見られないわけだね」

 チャールズが不満そうだった。

「ロイやウイリアムが裏切らなければ、面白いシーンもない。賭けだな。あの二人の行動次第で、簡単に決着がつくか、激しい戦いとなるか」

 ゼクスが腕を組んだ。

「マー伯が協力してくれれば、戦は早く終わる」

 ケインもダグラス城を見つめていった。マー伯トマスは、きっとダグラス城内に来ているはずだ。そのままダグラス軍として、国王軍と戦うか。それともダグラス軍の背後を衝いて、国王軍の味方になるか。

 それによっても、勝敗の確率が変わってくる。

 ダグラス軍がどれだけのカードを用意しているか。また、国王軍がどれだけのカードの準備ができるか。
 この戦は負けられない。
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