Mezza Voce Storia d'Aore-愛の物語を囁いて-
―ケインSIDE―

 一四二四年五月八日二十二時。

 庭灯の明かりが届く場所で、ケインはジョーンの帰りを待っていた。緑豊かなエディンバラ城。庭の手入れが行き届いていた。

 華やかに見える庭だけれども、どこか寂しさも薫っていた。もしかしたらケインが、ジョーンの小さな背中を思い出していたせいかもしれない。

 エディンバラには、ローマと同じく七つの丘がある。中でもエディンバラ城の岩山、カッスルヒルは、有史以前より天然の要塞として機能していた。

 七世紀にスコット人がこの地を「斜面の尾根を持つ丘の要塞」の意でDun Eldeann(ドゥン・エイデン)と呼んだのが、エディンバラの語源である。

 その位置は、イングランドとの国境のトゥイード川から比較的近く、軍事要塞として名高い城だった。

 ジョーンの住む城がエディンバラだと知ったときもケインは腹が立った。なぜ容易に敵の攻撃対象となるエディンバラ城をジョーンの生活の場にするのかと。

 スコットランドで王妃が過ごすのに、最適な場所は他にもあるはずだ。わざわざイングランドの国境に近い軍事要塞でなくてもいいはずだ。

 エディンバラ城とよく似た環境で、都市として発達した場所であるスターリング城はどうだろうか?

 スターリング城は、エディンバラ城と同様に火山性の岩山に立つ。西と北が絶壁ながら反対側の尾根が、比較的なだらかにくだり、その尾根づたいに都市が発達したのもエディンバラとよく似ている。

 エディンバラ城が軍事の中心であるならば、エディンバラ城より北西に位置しているスターリング城は、王政の中心である。
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