Mezza Voce Storia d'Aore-愛の物語を囁いて-
 ジョーンだけ、特別なわけがない。他の貴族の娘と同じように、嫁に出される。相手がスコットランドの国王だっただけ。ケインが怒る義理もなければ、反対する権利もない。

 ケインにできるのは、ジョーンの傍にいて傅役を務めるだけだった。

 マードックと森に入っていった光景を思い出すと、ケインは苛立った。

 ジョーンからすべてを聞いたわけではないが、なぜ嫌っていたマードックを呼び、木々の中に入って行ったのか。だいたいの察しはついていた。それでも、苛立つ心は止められない。

 ジョーンにあんな辛い顔をさせたジェイムズが許せなかった。

 夫婦なら、妃の笑顔が絶えぬように努力するべきだ。ジョーンの笑顔はとても美しく、一緒にいる者を心安らかにさせてくれる。

 素晴らしい笑顔だ。それに気付かないジェイムズに腹が立っていた。

(己の野心ばかりを優先して、ジョーンを利用するなど許せない)

 ジョーンの帰りが遅い。マードックを殺して戻ってくるなら、さほど時間は掛からないはずだ。
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