Mezza Voce Storia d'Aore-愛の物語を囁いて-
 イングランド騎士の手を取り、イングランドの香りが僅かに残る馬車から、ジョーンは顔を出した。

 スカートを軽く持ち上げて、ゆっくりと足を動かした。茶色のブーツを履いているジョーンの細い足が近くに立っているスコットランドの騎士にも見えただろう。

 ジョーンはエディンバラ城の地に足をつけた。細く白い指が離れたピンクのスカートが左右に揺れた。太陽の光を受け、スカートの金糸がきらきらと輝いた。

 スコットランド人の歓声が止んだ。城内が一気に静まり返り、静寂に包まれた。

 誰もがヴェールの中に隠れているジョーンの顔を、見ようと目を凝らしているのがわかった。集まった人々の熱い視線がジョーンに注がれているのを感じながら、ジョーンは顔を上げた。

 ピンクのドレスが風に揺れた。白いヴェールも揺れて、ジョーンの白くて艶やかな肌が見えた。小さな顔にある大きな瞳が、強い意志の光を放っていた。

 ヴェールの合間から覗かせる、ジョーンの美しく輝く笑顔に、スコットランド人から感嘆が漏れた。

 ジョーンの身体は全体的に薄くて小さい。『華奢』という言葉がぴったりだ。ジョーンの胸元には、赤い薔薇のブローチがあった。スカートには、ボーフォート家の紋章が金糸でさりげなく刺繍されていた。
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