Mezza Voce Storia d'Aore-愛の物語を囁いて-
 一四二八年八月二十二日。

 昼食を食べ終わったジョーンは、メイドを連れて城からさほど離れていない中庭で、本を読もうと決めていた。

 城から出ると、豪華な馬車が泊まっていて、ジョーンは気になった。馬車の前で待っているメイドと、ローラが友人らしく、顔を合わせるなり挨拶をしていた。

 耳を傾けて二人の話を聞いていると、どうやら馬車の持ち主はレティアのようだった。

 詳しい話を友人から聞いてくるように伝えると、ジョーンはその場から立ちさった。

 中庭を歩き始めて、二十分もしないだろう。整備された芝生の上に、椅子を置いた。

 ジョーンは腰を掛けると、エレノアが大きな日傘を差してくれた。

 ジョーンの背後には城が大きく聳え立ち、視界には緑豊かなスコットランドの大自然が広がっていた。

(レティアが何の用かしら?)

 ジョーンは本を広げても、文字が頭の中に入ってこない。レティアの馬車が、脳裏に焼きついて、離れなかった。

「ローラが来ます」

 エレノアがジョーンの耳元で、教えてくれた。

 ジョーンは本を閉じると、振り返った。ローラ一人で、ジョーンに向かって走ってきた。長いスカートを持ち上げて、必死に走ってきていた。頬が紅潮し、鼻には大きな粒の汗が浮いていた。
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