金色の陽と透き通った青空
第20話 運命の悪戯
 新しい年が明け、1月の軽井沢は雪で一面真っ白で、車の運転はスタッドレスタイヤが必需品。路面凍結によるスリップ事故や、家々の屋根や樹木からの落雪などにも要注意。杏樹は気が気でない。

 あれから時間が出来る度に、智弘は車を飛ばして杏樹に会いに雪深い軽井沢のガーデンハウスにひょっこりやって来て、一泊して東京に帰って行く生活が続いている。とても疲れてるような、うっすらと目の下にクマも出来ていて、杏樹は気が気でない。
 寂しがっていないかと気を使って無理しているのではないか?毎回東京から到着メールか電話が届くまで、安否が心配で、雪が解けるまで、来るのを控えてくれないか?もし駄目なら、運転手付きの車で来てくれないかと、気持ちが落ち着かない。
 その事を智弘に言うと、サラリと受け流されて、「杏樹は本当に心配性だな」とクスリと笑われるだけで、真に受けてもらってない状況だ。
 運転手付の車の件は、例え運転手に口止めをしても、調べればすぐに軽井沢に頻繁に来ている事が分かってしまい、総帥の耳に入ってしまう。こちらに来るのを阻止しようと手を回される危険もあると、予防線を張っているのだと思う。
 そして、「俺が会いたくて、会いたくて、仕方ないから、鬱陶しがらずに、家に戻ってきた時はそんな不安そうな顔をしないで、大喜びの笑顔で迎えてくれないかな?」と言われてしまう。
 
「ごめんなさいね。あなたの事がとても大切だから、ついつい心配してしまうのよ。本当に早く春が来て欲しい。雪が早く消えて欲しい」 
「全く……。でも、そんなに思って貰えて男冥利に尽きると言うか、感激と感動で胸がいっぱいだ。初めてここに来た日の事覚えてる?ドアチェーンまでかけられて、完璧招かざる者って雰囲気で……。でも全て俺が悪いんだけどね」
「ふふふ……。懐かしいわね。ドアの隙間から手を伸ばして、あっさりとチェーンを外されて、家の中に入って来た時には、唖然としたわ。全く役に立ってないなと本当に呆れてしまったわ」

 ダイニング兼居間の窓辺の側にある、カントリータイプのベンチソファーに並んで寄り添いながら座り、部屋の隅にある、クッキングストーブにくべた薪がパチパチとはね、赤々と燃えるのを見つめながら、あれこれと積る話は尽きない。
 智弘は、突然杏樹を抱き寄せて、いたずらっ子の表情をした。

「今度チェーンをかけられたら、ドアを破って入って来るかも」
「まあっ!」

 互いに思い合い、慈しみ合い、語り合い、眠る時には小屋裏部屋の天窓から星空を見ながら抱きあって眠る。離れ離れの生活が続いているけれど、寂しくない。ほんの少し我慢すれば、また会いに来てくれるから。そして離れていても、心は互いに寄り添っているから……。


 * * * * *


 3月上旬になった。

 まだまだ雪に覆われて除雪車が必要だが、あともう1ヶ月もすれば雪も消えて、杏樹の心配事も春の訪れと共に、解ける雪の様に消えてなくなる。『早く春にならないかしら?』心の中で何度も呟いた。
 春が近付いてきたからだろうか?何故か最近無性に眠くて、朝起きるのが辛い。何度も、何度も欠伸(あくび)が出てしまう。きっともうすぐ雪が解ける証拠だわ。春が近いのだわ。そんな気持ちでいっぱいになった。

 ――そんな明るい春のような気持ちを撥ねつけるように、突然恐ろしい闇が襲ってきた。

 この季節、日中暖かくて解け出した雪が、夜間に再び凍ってアイスバーンになりやすい。高速から一般道に降りて、暫く走った路面で智弘の運転する車がスリップ、路肩の側面に激突の単独事故を起してしまった。頭を強打し、軽井沢の救急病院に搬送された。

 《第21話に続く》
 


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