空色の瞳にキスを。
アズキが起きられるようになってから、二日後にサラがやって来た。人を外に追い出して、鍵の呪文をかけて、アズキの方を振り返る。

「おばあ……ちゃん?」

ゆったりと歩いて来るサラの瞳は、薄い桃色だった。アズキの見慣れた金色ではない。
アズキの常識が音を立てて崩れ落ちていく。

「あぁアズキ。お前にも魔力の扉が開いたね。」

孫に笑いかけた笑顔はなんとも切なくて、悲しくて、アズキはどうして良いか分からなかった。意味なんて分からなくてアズキはぽつり、と同じ言葉を繰り返す。

「魔力の、扉?」
「そう、魔力が使えるようになったってことさ。」

魔力が使えるということは、魔術師になれるということ。それは良い仕事につけること。アズキにとって、それは生活が安定する素敵な力である。それをどうしてサラが悲しいことのように言うのか分からなかった。

「今から言うことは、普通の人には知られてはいけないよ。あんたのお母さんも普通の人だからね。」
「……絶対、聞かなきゃいけない?」

もはや普通の人ではなくなった、という意味で取れる祖母の言葉に、動揺した。先の見えない不安がちらついた。

「あぁ、聞かなければお前さんが危ない。
聞いても危ない目には遭うかも知れないが、聞かないことに得はないぞ。──一度開いた魔力の扉は、戻りはしないから。」

縁のなかったこと言葉ばかりが祖母によって連ねられる。サラは、もしかしてずっとその世界の住人──魔術師だったのだろうかという考えが頭をよぎる。

「ねぇおばあちゃん。
その魔力の扉って、誰にでもあるの?例えばナナセにも、トーヤにも?」

「あるさ。トーヤの扉は開きにくいが。じゃがナナセ王女はもともと開いていたに近いはずであろうよ。
王女は国一番の魔力の持ち主さ。元から扉が軽かったことと、生まれつきの魔力の大きさであの子はあれだけ強いのじゃろうな。
……扉は子供のうちが開きやすい。
大人になっても強い魔力を持つ者の隣にいることもまた、扉を開きやすくさせるんじゃよ。」

ナナセの魔力に影響されて、扉が開きかけていたのだろうか。そこまで考えてそっとアズキは両手を重ねた。無意識に重ねられたそれは、祈りの形。

「……トーヤは開かないといいな。開いたらきっとナナセが悲しむ…。」

「あの王女のこと、よく分かっておるな。
あんたが魔術を使えると知っただけであの子は悲しむだろうな。」

サラが遠くを見つめるその横顔を、アズキはぼんやり見ていた。

「自分の影響を受けさせないように必死で離れていた気がしたからなぁ。」

サラが遠くに視線を流した。同じ家にいて年の近い自分より彼女との関わりが少ないはずの目の前の人は、思っていたよりずっと、彼女の親友を知っていたのだ。
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