空色の瞳にキスを。
まわりは一面の無の世界だった。

近いのに遠くに見えるそんな距離に、アズキとナナセは見つめ合う。
ここはどこだろうと首を捻るが、アズキの記憶のなかに思い当たる場所はない。

「アズキごめん、ごめんねアズキ……。」

俯きながら涙を零して、こちらをまともに見ることができないナナセは、アズキが見てきたハルカより幾分人間らしかった。
酷く幻想的な銀髪と青の瞳は、最後の日に見た彼女そのままだった。けれどもいつも着ていた青いスカートと茶色のコートではなかった。ふわりと広がる淡い空色のワンピース姿。

けれど、彼女のあちこちに白い包帯が見えた。腕や足から見える包帯は血が滲んでいる。

「ナナセ。こっちこそごめんね……、ごめんね。」

私が両親に話して、と言ったからこんなことになったんだから、ナナセは悪くないのに、どうして泣くの。謝ることなんてなんにもないよと笑いたいのに、アズキは上手く笑えなかった。

所詮これはただの夢だって、届くわけないって、心の奥でアズキは分かっていた。ナナセはリョウオウにはもういないのに。

無意味だと知っていても、アズキは声を発し、笑みを浮かべた。本当の彼女に届くわけがないのに。夢だって、分かってるつもりだけど、自分の作り出したナナセを見て、本物に会いたくなった。

「アズキ……いつか、本当にいつか、会いに行くから。」

幻の少女のそんな声が聞こえて、アズキは笑った。
霞がかかってきた。足元の感覚がなくなる。

くらりと暗転する世界にアズキは目を閉じた。




「──キ、……ズキ、アズキ、」

もう一度目を開くと、目の前には心配そうな幼馴染みの顔。

「あ……トー、ヤ?」
「良かった、アズキ。目を覚ました……。一週間寝てたんだからな?」

ほっと安堵したトーヤが、いつも通りで心がほぐれた。真っ先に投げかけた質問は、彼女のこと。

「ナナセは……?」

トーヤの手が止まった。あの記憶は夢ではないらしい。

起き上がると目に入った自分にかけられている布団の白さにびっくりした。
なにも柄のない白いこれには、見覚えがあった。ここはきっと彼女が診療所として使っていた、自宅の近くの空き家。

「もう、出て行ったよ。
アズキをそのまま置いて。」

「……そっか。」

 このときアズキはどうしてか、自分からナナセの匂いを感じた気がした。

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