ぬくもりをもう一度
香ばしい香りがするかと

思いきや甘い香りも漂わせる

それらは、

きっと学内中の食べ物を

制覇してきたのだろう。


俺たちに向かい合うようにして

座った郁哉は、

それらのうちの1つを手にして

がさごそと中を探る。


「郁哉、悪い。俺たちもう帰るわ」


ようやく取り出した鯛焼きを

ほお張る郁哉に向かって声をかける。


「そうなんですか?

 残念ですけど……、また今度」


「あぁ、またな」


「じゃあね、宮下くん」


イタズラな笑みを見せる郁哉に、

心の中で「サンキュ」と告げると、

香澄の手をそっと取り

並んで歩き始めた。






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