冷たい雨に咲く紅い花【後篇ーside実織ー】
「世菜」
〝笑顔〟で名を呼ぶと、
嬉しそうに彼女も笑ってくれた。
「ミオ、今日はお客さん?」
「そ、次のシフトは明日の夕方」
「じゃあ改めて、〝お客様ご注文はお決まりですか?〟」
世菜が営業口調で私に尋ねる。
でも、笑顔は変わらない。
元気で、優しい、
いつもの笑顔。
「じゃあ、ハニーココナツとカスタード、
それから…ビターチョコレートのドーナツを
3つずつください」
〝笑顔〟で世菜に伝えると、
「はい。かしこまりました。少々お待ち下さい」
手際よく、世菜はドーナツを箱に詰めていく。
あの日のようにーー。