冷たい雨に咲く紅い花【後篇ーside実織ー】
「お待たせしました」
柔らかな声が聞こえ顔を上げると、
笑顔の世菜が、ドーナツの箱を私の方へと差し出していた。
告げられた代金を渡し、
ドーナツの箱を受け取る。
「ありがとうございました」
迎えてくれたときと同じ
元気な声で、
元気な笑顔で、
世菜が見送ってくれる。
遠くにいきかけた心を、
悟られないように、
「ありがとう、世菜」
〝笑顔〟で店を後にした。