赤い月 肆

「では、行ってくる。
せわしなくてすまぬな、白。」


黒曜に横抱きにされたままのうさぎが、白蛇に声をかけた。

どうやら黒曜はうさぎの身を案じ、彼女を抱えたまま飛ぶつもりのようだ。

さすが過保護一号。


「しゃーないなー。
酒は薫に付き合うてもらうわ。」


「…未成年デスケド?」


「おまえが? 人間と?
…珍しいな。」


お酒は二十歳になってから☆
を主張する薫の呟きは、残念ながらガン無視される流れだ。

目を丸くする黒曜に、白蛇はフェロモンだだ漏れで片目を閉じた。


「気に入ってん。
正直やし、剛毅やし。
人間にしては、エエコやん?」


「へ?」


人間にしては、て…
褒めてンの?

複雑な顔で白蛇を見る薫の背後で、クスクス笑い声がする。

振り向くと、うさぎが微笑んでいた。


「当然じゃ。
薫じゃからな。」


誇らしげに、愛しげに…


「チっ
行くぞ。」


舌打ちと共に黒曜が踵を返し、うさぎが彼の広い背中で隠される。

銀の流星になった二人の鬼神は本堂を飛び出し、瞬く間に夜空に消えた。

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