玄太、故郷へ帰る



私が最後に玄太と東京で会った日。

あの日。
両親に内緒で、ネットで偶然ヒットした『自称詩人、玄太の詩会』へ行った日。

公園のフリーマーケットの片隅で、手製の詩集を並べて売っていた玄太。
お土産に持って行った、大好物の魚肉ソーセージを美味しそうに頬張った玄太。


……ああ、そうだ。
あの日は随分晴れていて、東京の空もパリッとしていた。
今日みたいにこんな風に、どんよりした雪の日なんかじゃなかった。

弟と、久しぶりに二人で肩を並べた。
ほんの数時間だったけれど、下らない話に変わらない安心感を覚えた。


あれから玄太からの便りはないけれど、いったいどうしているのだろう。
相変わらずなのだろうか。
……やっぱり、相変わらずなのだろう。


父も母も口にはしないけれども、弟の事はいつも気にかけている。

『一度帰って来ればいいのに』
私がそう言うと。
玄太は、
『男の意地があるからね』
と答えた。

『詩人になるまでは帰れない』
と。



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