碧い月夜の夢
「だぁってさ、せっかくだから目の保養はゆっくりじっくりしたいじゃない」



 2ヶ月前に偶然この喫茶店を見付けてから、店員の格好よさと料理の旨さにハマっているのだそうだ。

 まぁ、サヤカの事だから9割は目の保養に来ているのだと、凛々子は思う。



「あのね。あんたの目の保養に、いちいちあたしを付き合わせないでよね」

「いいでしょ。たまの休みくらい外に出なさいよ。どうせあたしが誘わなかったら、一日中アパートでゴロゴロしてるだけなんだから」



 ここら辺は、さすが生まれた時から家が近所で、幼稚園の時からずっと一緒に遊んできた親友とでも言おうか。

 随分見透かされたようだが、ドンピシャに当たっているだけに何も言い返せない。
 悔しいからサヤカの事は放っておき、しばらくメニューと睨めっこをしてから、シーフードドリアとコーヒーのセットを注文する。



「で、最近どうよ?」



 落ち着いた所でやっとこっちに視線を戻して、サヤカは会話らしい会話をする気になったらしく、こんなことを聞いてきた。

 この春に高校を卒業してから、サヤカに会うのは初めてだ。

 今は6月の始めだから、約2ヶ月ぶりだ。

 凛々子は卒業後すぐに実家を出て、昼間はガソリンスタンド、夜はカラオケボックスでアルバイトをしている。

 両親はちゃんと正社員で働ける職場を見つけろとうるさかったが、今の生活は気に入っていた。

 朝から夜中まで仕事を頑張っていれば、何も余計な事を考えずに済むからだ。

 今日はたまたま、丸一日バイトが入っていなくて、サヤカがどうしても一緒に来て欲しいというこの喫茶店でのランチに付き合っている。

 そのサヤカは、ファッションデザイン系の専門学校で青春を謳歌しているらしい。



「何もないよ。バイトして、アパートに帰って寝るだけ」




 別に、実家からも仕事場まで車で通おうと思えば通えるのたが…何となく家にいたくなかったから。
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