碧い月夜の夢
「大丈夫か?」



 レオンが近付いてくる。

 だが、凛々子の身体は、思うように動いてはくれなかった。



「あれ…大丈夫…じゃない、みたい…」



 どういう訳か、疲労が激しい。

 立っているどころか、喋るのもやっとだ。

 昨日レオンに引っ張られて空を飛んだ時には、そんなことなかったのに。

 それを言ったら、レオンはそりゃそうだと大声で笑う。



「テルラは精神的な要素が強い世界なんだ。ただでさえあんなもの見せられて落ち込んでたのに、その後に空間ごとアルマを消すなんて大技をやってのけたのは、オマエが初めてだよ」

「それ…初耳なんですけど…」



 途切れ途切れに言葉を紡ぎ出すが、まだ立ち上がる事が出来ない凛々子。



「昨日はそんなこと説明する時間がなかったし、それにオマエって理解力なさそうだったし。言ったろ、オマエは頭で理解するよりも身体で覚えるタイプだって」



 もう、何か言い返す気力もなかった。

 すると、レオンは凛々子の隣に、あぐらをかいて座る。 

 そして動けない凛々子の頭を掴むと、自分の太ももの上に引っ張った。

 凛々子にはまるで抵抗する力もなく、レオンに膝枕をされる体勢になる。



「ま、昨日の今日でここまで進歩したんだ、そこだけは誉めてやるよ」

「そりゃどうも…」

「でもよ」



 混ぜっ返すようで悪いけどな、と、レオンは前置きをして。



「あの後、オマエを傷付けた暴漢はどうなったんだ?」



 その質問に答えるには、凛々子は少し言い淀んだ。

 でも、ここまで知られてしまったのなら、隠しても隠さなくても同じ。

 それなら、レオンには正直に話した方が、かえってスッキリする。

 だって、これが現実なんだから。



「あの男は…亡くなった、の…」



 出血多量だった。

 突き刺したナイフを慌てて引き抜いたのが致命傷に到った原因だと、あの時担当していた刑事が、バカがつくくらい親切に教えてくれた。

 これを聞いたらレオンは引くかも知れない、と、凛々子は少しだけ身構えた。

 だがそんな事を気にする様子もなく、そっか、とレオンは呟いて。



「オマエの体験は、俺が今まで会ったどんな人間よりも強烈だな」

「前にも、あたしみたいな人がいたの?」

「……あァ、いた」



 ふぅん、と、凛々子は相槌を打った。

 レオンはそれ以上何も言わないが、過去にも同じような人がいたのか。
< 33 / 77 >

この作品をシェア

pagetop