碧い月夜の夢
【3】
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 何故か、目覚めは良かった。

 昨日カラオケボックスのバイトをサボったせいか、肉体的な疲れは殆ど感じなかった。

 起き上がり、顔を洗おうと洗面台の鏡に向かった時、頬に涙の跡があることに気付く。



「寝ながら泣いてたの…あたし」



 小さく呟いて、軽くため息をつく。

 確かに肉体的な疲れは残ってはいなかったが、昨日の夢は…正直言って、精神的にはかなり疲れている。

 だが、思い直してゴシゴシと顔を洗ったら、スッキリした。

 心も、何だか軽い。

 何処かにつっかえてずっと残していたわだかまりを、一気に吐き出した気分だった。

 窓の外は、いい天気。

 日差しは徐々に、真夏に近付いている。

 今日もまた、いつもの日常がいつものように始まる。

 凛々子は、着替えを始めた。




☆  ☆  ☆




 不思議な事に、あれから全く夢を見なかった。

 レオンと一緒にアルマをやっつけたあの日から一週間が経つが、朝、目が覚めても夢を覚えていない。

 もしかしてもう、テルラとは繋がっていないのかとも思ったが、頭痛は相変わらず続いていて。

 重い頭を引きずりながら歯磨きをしていると、携帯が鳴った。

 歯ブラシをくわえたまま携帯の通話ボタンを押す。



「もひもひ…」

『何、今ごろ朝ごはんなの?』



 第一声が、これだ。

 凛々子は思わず吹き出して、歯磨きしてたからちょっと待って、と、携帯を耳と肩に挟んだまま洗面台に戻り、うがいをする。



「お待たせ。どうしたの、サヤカ?」

『もうお昼近いんだよ、休みだからっていつまでも寝てないで、ちょっと出てきてよ』



 どうしてサヤカは、不定期な凛々子の休日を知っているんだろうと、不思議に思ったが。



『さっきあんたのバイト先でガソリン入れようとしたら、今日は休みだって聞いたからさ』



 なるほど、と、凛々子は納得する。

 しかし、このサヤカの嗅覚は大したものだと感心して。

 それから、どうしても話があると呼び出され、凛々子はあの海の前の喫茶店に向かう。




☆  ☆  ☆



 サヤカは既に、店の中で待っていた。

 また、この店のイケメン店員に釘付けになっている。

 もしかしたら、凛々子に電話をくれた時にはもう既に、この近くでいたのかも知れない。

 店に入ってきた凛々子の姿を見ると、あの眼鏡の店員が微笑みながら近付いて来た。
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